燕市の「帰省を自粛する県外の学生を応援する施策」が成功した理由とは?大事なのは「心」

新型コロナウィルスへの各自治体の対応の中で、筆者が最も注目したのは新潟県燕市の学生への取り組みである。県をまたいての外出自粛の中、帰省できない学生の支援のために市の特産品を送るというこの施策は、 NHKを始めとしたTVや各種メディアで取り上げられたので、ご存じの方も多いであろう。

燕市の「帰省を自粛する県外の学生を応援する施策」の注目すべき点とは?

今回の施策は、支援品は市内のメーカーからの寄付、送料は市の負担という官民一体のものであった。この施策により、燕市出身の学生はふるさと燕市をより強く感じるようになった。さらに燕市の知名度を上げ好感度アップにも貢献したのである。

この施策における注目すべき点は、以下の2点にある。

スピード感のある実施

行政は何かと実行するのが遅く、批判されるのが常であるが、燕市の今回の施策は違った。

燕市の鈴木市長のブログによると、緊急事態宣言(4月7日)の後にすぐ検討→4月10日にプレスリリース発表→4月13日には支援品の荷造りとなっている。その結果、4月中旬~下旬に第一弾の支援品が届くという、まさにスピード感のある実施となった。
燕市の鈴木市長のブログ
燕市プレスリリース

鈴木市長からの学生を思った手紙

この施策は単に支援品を送付しただけではない。支援品には鈴木市長からの手紙が添えられていたのである。

支援品以上に学生を勇気づけたのは、鈴木市長の学生に対する熱い思いを形にしたこの手紙であることは間違いない。手紙の内容は学生を思う率直な内容で、現在施策は第三弾まで続いているが、ここでは第一段・第二弾の市長の手紙についてご紹介しよう。ぜひ全文を読んでみてほしい。

燕市への帰省を自粛している学生の皆さんへ
燕市では、5月6日までの間、新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐため、緊急事態宣言が発令された区域から燕市への往来について自粛をお願いしています。
さびしく不安な気持ちでいっぱいな皆さんに対しても、ふるさと燕市へ帰省しないでほしいとお願いすることになってしまい、大変申し訳なく思っています。
そんなとき、私と同じように皆さんのことを心配する市内事業者の方々から、せめて、お米だけでも届けてあげたいという声をいただきました。とても素晴らしい取り組みだと思い、すぐに実行することとしました。
燕市で収穫されたコシヒカリ5キロと手作りの布製マスク1枚を手配していたところ、支援の輪がどんどん広がり、味噌や漬物もお届けできることになりました。おいしいご飯をモリモリ食べて、少しでも元気を出してほしいと思っています。
燕市は、いつでも皆さんを応援しています。
新型コロナウィルスに負けることなく、この難局を乗り越えられるよう、一緒に頑張りましょう。
令和2年4月
燕市長 鈴木 力

https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2004/19/news023.html

燕市への帰省を自粛している学生の皆さんへ
元気で過ごせていますか?
おいしいご飯を食べていますか?
緊急事態宣言が全国に発令され、ここ燕市でも、外出自粛のムードが高まってきました。
本来ならば、新たな出会いに心が躍る春の季節に、友達と会うことも、「ふるさと燕」へ帰ることも控えなければならない皆さんの今を考えると、とても切ない気持ちになります。でも、もう少しだけ、この難局を乗り切るための我慢を続けてほしいと思います。
皆さんを応援したいという人たちの輪がどんどん広がり、燕市民のソウルフード「背脂ラーメン」をお届けできることになりました。懐かしいふるさとの味で、少しでも気持ちを和らげてもらえたらと思っています。
燕市は、皆さんがいつでも安心して戻ることができる「ふるさと燕」を守るため、「『ふるさと燕』を守ろう!フェニックス11」と題した、総額4億円に上る独自の経済・生活支援対策に取り組みます!
私も皆さんに負けないくらい、頑張りたいと思います。
令和2年4月
燕市長 鈴木 力

https://twitter.com/ys_mgu_sw/status/1255661241508327425

燕市の学生支援施策が成功した理由

今回の施策実施については、「燕市のサイズであったから、スピーディーにできたのではないか?」と考える人もいるかもしれない。確かに燕市の人口は78,977人(2020年4月末日時点)、支援品を送った学生は550人である。大都市で実施した場合には、さらに調整や負担が多くなることは想像にかたくない。

しかしこのスピード実施の裏には、以前から燕市が行ってきた取り組みが、大きく寄与しているのである。

燕市は、2017年に燕市の企業に学生インターシップを受け入れるための事業「公益社団法人つばめいと」を設立した。インターシップ時に宿泊できる「つばめ産学協創スクエア」、首都圏に在住する燕市出身の学生とのコミュニケーションをとるための「東京つばめいと」サイト開設など、様々な取り組みを行ってきた。

このように燕市は学生と普段からコミュニケーションをしており、情報を得ていた。この情報の蓄積から学生のニーズを素早く把握できたのかもしれない。さらに燕市と地元企業との間にもコミュニケーションがとれていたのであろう。企業側が何を支援できるかを燕市に伝えられる素地があったのだ。これらの常日頃からの取り組みが実を結び、スピード実施ができたのである。

そして何よりもこの施策で重要なのが、市長からの手紙である。単に、困っている人に対する支援を素早く実施しただけであったなら、今回の燕市の学生支援施策がここまで学生を感動させ、メディアにも取り上げられることはなかったであろう。鈴木市長の学生に対する率直な思いがあふれる手紙があったから、成功したのだ。

施策をスピード感を持って実行することは、ある意味体制さえ整っていればよい。現代の情報化社会においては、それは可能であろう。

しかしながらその施策が成功するか否かは、それだけでなく、人の心が感じられる内容でなければならないのだ。今回の燕市の施策はそれを示す好事例であろう。

チカ’sポイント

少子高齢化の中で地方都市がどのように生き残るかは、どの都市にとっても大きな課題だ。今回の施策は燕市出身の学生・Uターン希望者だけではなく、今後のIターン希望者への決定に大きな影響を与えると言っても過言ではない取り組みだ。

多くの地方都市が地元に人を呼び込もうと施策を実施している。その一方、大多数が人々から反応なく失敗している。なぜなら燕市の事例のようにその施策には心がこもっていないからだ。

さらにこれは地方都市の施策だけでなく、企業のプロモーションにも当てはまる。商品の良さだけを伝えることにいっぱいになっていないか?もう一度自問してもらいたい。そのプロモーションには消費者に寄り添ったぬくもりが感じられるか、と。

チカの別視点

マーケティングでは「新規顧客の獲得は、既存顧客のリピートの5倍の費用がかかる」と言われている(業種や業態によって正確な倍数は異なるとは思うが、要するに新規獲得の方が難しいと理解して欲しい)。

これを地方都市に当てはめると、都会に学業で進学した人や就職した人が戻ってくる方が、Iターンを呼び込むより楽ということだ。燕市が地元出身者の支援に力を入れているのも、うなずける話なのである。

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